研究概要 |
【プロセス3:小惑星の熱変成】 1・2年目の研究により,40個のCMコンドライト隕石から,20個の加熱脱水を経験した試料を同定した.これらの試料に対して,微細組織観察,微量元素定量分析,極微細組織観察・極微小領域の化学組成定性分析を行い,岩石学的にCMコンドライト隕石として分類できる8個の試料について更に詳細研究を行った.特に熱に敏感な層状珪酸塩鉱物の観察と,主要構成鉱物組み合わせに基づいて,これら8個の隕石の熱変成の程度と推定経験温度領域を以下のように分類することができた. 《強い加熱(750-1000度),中程度の加熱(500-600度),弱い加熱(300-500度)》 強い加熱を経験したグループの隕石は,層状珪酸塩鉱物の化学組成,全岩の酸素同位体組成が,弱い加熱を受けた隕石とは大きく異なっていた.この結果は,強い加熱グループに属する試料が,母天体上で水質変質を経験した際,その水溶液の化学組成がCMコンドライト隕石母天体とは異なっていたことを示唆している.また,これらの試料に関しては,マトリクス中に部分溶融したトロイライトと非溶融トロイライトが点在している組織が観察されている.この観察結果は,これらの隕石の最高到達温度が,試料内で不均一であった証拠である.加えて,珪酸塩鉱物に弱い衝撃組織が認められることから,強い加熱グループの熱源として,世界で初めて「衝撃加熱」であると特定することができた. また,韓国極地研究所にて,全岩の酸素同位体組成分析のシステム改良にも引き続き取り組んだ.このシステムを使用した結果に基づくと,弱い加熱を経験したグループ属する2つの隕石について,非常に興味深い結果が得られた.そのデータによると,これまで推測されてきた太陽系始原水の組成に,大きなばらつきがある可能性が示唆される.これは,始原的小惑星の進化のみならず,太陽系の進化にも直結する非常に大きな意味を持つ.この結果は,2011年8月にイギリスで開催された,国際隕石学会で発表するとともに,現在論文を準備中である. 【プロセス1:惑星の形成】 2年目に引き続き,探査機はやぶさの回収した小惑星イトカワの表面試料の初期分析を行った.この結果は,2011年3月の国際月惑星科学会議,2012年8月の国際隕石学会,科学雑誌サイエンスで報告された.この分析の結果,これまで広く研究されてきた隕石が,確かに小惑星から飛来したものであると初めて確認された.また,地球に飛来する最も一般的な隕石である普通コンドライトと,その母天体であるS型小惑星の表面の反射スペクトルの違いは,試料表面に宇宙線照射による宇宙風化が生じるためであるとした従来の定説が,正しいものであったと確かに立証することに成功した.これは隕石研究にとって歴史的な成果である.
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