研究概要 |
卵丘細胞は,卵子を成熟させる細胞である.本年度はLHサージ後から排卵までの卵丘細胞の機構を解析し,体内を模倣した体外成熟培養法開発のための体内モデル作製を目的に以下の研究を行った. (1)卵丘細胞の膨潤は,卵子の減数分裂再開や,排卵時の物理的な遊離に必須である。本年度の研究で,膨潤は卵丘細胞が運動性を獲得することで成立することを世界で初めて示した.癌細胞転移時に活性化するM-Calpain(CANP2)が,卵丘細胞内で膨潤が開始するLH刺激後,有意に活性上昇することを発見した.CANP2は細胞内の細胞接着に関係するタンパクを分解するプロテアーゼである.CANP2活性は,卵丘細胞の細胞間結合を切断,標的タンパクを分解していることを,免疫染色法,Western Blot法により示した.また,Calpain活性阻害剤をマウスに投与した結果,卵丘細胞の膨潤が遅延し,体外培養でも,Calpain活性阻害剤により卵丘細胞の膨潤が抑制された.さらに,卵子の減数分裂再開がCalpain活性阻害によって遅延しており,細胞間結合切断抑制が原因と考えられた.タイムラプスを用いた実験では,卵丘細胞の運動が,拡散モデルのパターンと高い相関性を示し,細胞の拡散運動によって膨潤が成立していることを示した.さらに,細胞内Pathwayの各種阻害剤を用いた実験により,EGF receptor-Ca^<2+> PathwayがCANP2の活性を誘起していることが明らかとなった,この発見は,体外培養で卵丘細胞の膨潤と卵子の減数分裂をCANP2の活性能を介して制御することが可能になることを示している.(2)平成21年度に実施した体外培養におけるNuregulin 1 (Nrg1)添加による結果を受けて,NRG1の卵巣特異的ノックアウトマウス(NRG1のFloxマウスにCyp19-creマウスを掛けたマウス)を作製した.これまでに,得られたマウスの産子数は野生型と比較して,減少傾向にあることを確認している.また,作製したNRG1^<flox/flox>Cyp^<cre>マウスの雄個体も産子数が減少傾向にあり,多くの精子に形態異常が認められた,現在はこれらのフェノタイプの詳細な検証を実施している.
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