細胞の活動に伴う発熱が細胞の温度上昇を起こすことは知られているが、単一細胞を対象にした温度測定の研究は少なく、細胞内温度変化が細胞の機能に及ぼす影響は明らかにされていない。本研究の最終目標は、細胞の熱産生が細胞内の局所的な温度に及ぼす影響、及びその生理的意義を明らかにすることである。 本年度は、(1)単一細胞の温度分布測定にむけた温度感受性シートの開発およびHeLa細胞への応用、(2)心筋細胞を対象とした温度測定・熱刺激の研究、(3)細胞内熱伝導率マップの作成に向けた実験系の構築、の3件の研究を行った。 研究(1)では温度変化に対する蛍光強度変化率の大きい蛍光色素を含む薄膜をガラスディッシュ上に作成し、その薄膜上にHeLa細胞を培養することに成功した。また薬剤投与(イオノマイシン)によるHeLa細胞の温度変化イメージングを行い、発熱時に核は細胞質より温度が高いことを明らかにした。発熱時の細胞の温度分布を、細胞内小器官と絡めた研究は本研究が初めてである。 研究(2)では研究(1)で作成した温度感受性シートを新生児ラット心筋細胞に応用し、拍動に伴う温度変化イメージングに成功した。シートの蛍光強度が細胞との接触によっても変化する問題点が残るものの、薬剤投与ではなく自発的な細胞の活動に伴う温度変化を、単一細胞で測定した初めての研究である。また、自発的収縮中の成熟ラット心筋細胞に局所的温度変化を加えるごとで、細胞内カルシウム濃度の上昇およびそれに伴う収縮を引き起こすことに成功した。これは心筋細胞の拍動を温度変化で制御するという新たな制御系の幕開けとなる大事な成果である。 研究(3)ではHeLa細胞内の球状熱源による温度分布から、細胞内熱伝導率マップを作成する系を構築し、核または核膜の熱伝導率が細胞質より低いことを示す結果が得られた。様々な細胞種に応用することで、細胞内熱産生に関する重要な知見を得られると期待される。
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