細胞の活動に伴う発熱が細胞の温度上昇を起こすことは知られているが、単一細胞を対象にした温度測定の研究は少なく、細胞内温度変化が細胞の機能に及ぼす影響は明らかにされていない。本研究の最終目標は、単一細胞内温度測定法と局所熱刺激法を用いることで、細胞の熱産生が細胞内の局所的な温度に及ぼす影響、及びその生理的意義を明らかにすることである。 本年度は、(1)熱刺激系の心筋細胞への応用、(2)新しい細胞内温度測定法の開発を行った。 (1)成体ラットから採取した心室筋細胞に、1455nmの赤外レーザーによる熱パルスを与えた。その結果、心筋細胞は温度上昇時に収縮し、レーザー照射を止めると弛緩することが分かった。この熱パルスによる収縮機構は、Ca^<2+>シグナルを介さない点において、電気刺激による収縮機構とは異なることを明らかにした。収縮装置、熱産生装置として知られる筋肉の、温度感受性という新しい収縮特性を見出した。 (2)温度感受性の蛍光色素Europium(III)thenoyltrifluoroacetonate trihydrate(Eu-TTA)を高分子ネットワークPoly(methyl methacrylate)(PMMA)で覆うことで、蛍光スペクトルがpH4~10やイオン強度(KC10~500mM)には応答せず、温度変化にだけ応答するナノ粒子を開発した。このナノ温度計はHeLa細胞内に自発的に取り込まれ、細胞内の酸性小胞(エンドソーム・リソソーム)に包まれ、微小管上を輸送された。輸送されているナノ温度計に対して熱パルスを与えた際の、小胞内の温度変化と輸送速度変化を同時に観察したところ、温度上昇に伴って輸送速度が上昇した。こうして、「歩くナノ温度計(Walking nanothermometer)」としての細胞内温度測定法を構築することができた。
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