昨年度はポリコーム群(PcG)タンパク質の左右軸形成における機能を明らかにした。PcGによるエピジェネティック制御はDNAのメチル化と密接に関わることが知られる。そこで本年度は左右軸形成のマスター遺伝子であり、本研究によりPcGにより制御されることが既に示されたNodalに対象を絞り、DNAメチル化を中心としたエピジェネティック転写制御機構について解析を進めた。マウスにおいてNodalは受精後3.5日後の内部細胞塊で発現を開始し、ダイナミックな発現の変化を示した後、9日後頃に発現が消失し、以後正常組織では生涯に亘って発現しない。そこで各発生段階におけるDNAのメチル化状態をバイサルファイトシークエンス法により調べた。内部細胞塊に相当するES細胞ではNodal転写開始点近傍がほとんどメチル化されていなかった。発現消失直後の9.5日胚では第1イントロンに位置する左側特異的エンハンサーがほぼメチル化されていなかったのに対し、転写開始点上流に幅広いメチル化が認められた。Nodalが発現しDNAが非メチル化状態にあるときにはこの領域からノンコーディングRNA(ncRNA)が発現していることがわかった。これは、DNAメチル化が直接またはncRNAの制御を介してNodalの転写抑制に寄与する可能性を示唆する。また9.5日胚で特に高頻度にメチル化を受けている領域の特徴を既報のゲノムワイド解析データを用いて検討したところ、これがES細胞特異的転写因子群により制御される新規のエンハンサーである可能性が示唆された。ICMでは活性状態にあるこのエンハンサーが胚発生中期にはDNAメチル化によりエピジェネティックに抑制されると予想される。
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