近年、細胞内の銅濃度を制御するシャペロンやトランスポーターの存在が明らかとなり、個々の性質については解明されつつあるが、銅の制御に関わるタンパク質が細胞内でどのように協働しているかは明らかになっていない。本研究では、銅排泄に関わると想定されているCOMMD1と銅シャペロンであるAtox1をRNA干渉法により抑制したときの細胞内の銅の挙動や銅関連遺伝子の応答を、高速液体クロマトグラフィー-誘導結合プラズマ質量分析法すなわちスペシエーション、分子細胞生物学的手法、そして、元素イメージングにより解析することにより、銅の制御に関わる各因子間のクロストーク機構を明らかにすることを目的とした。銅排泄に関わるとされているCOMMD1を抑制した実験結果では、細胞内の銅含有量は有意に上昇し、増加した銅はメタロチオネインに結合していた。また、COMMD1の新規機能として、銅排泄トランスポーターAtp7bの細胞内局在や安定性に重要な役割を果たしていることが示された。メタロチオネインの機能を詳細に調べるために、メタロチオネイン野生型およびメタロチオネイン欠損型の両細胞に存在するAtox1を抑制したダブルミュータント細胞を用いた。実際に、これらの遺伝子改変により細胞内の銅濃度が上昇しており、このときの銅分布と銅結合タンパク質を解析した結果、小胞内に集積していたことが明らかとなった。また、銅トランスポーターCtr1や銅シャペロンCcsのタンパク質量が増加していた。これらの応答は、細胞が銅欠乏を認識した場合に起こる現象であることから、メタロチオネインが存在しないときには、細胞内の銅濃度は上昇したとしても、小胞が銅を隔絶することにより銅の毒性をマスクし、このことが同時に銅の利用能まで低下させているため、銅結合タンパク質は欠乏様の応答を示したと考えられた。
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