日本学術振興会特別研究員採用2年目に当たる本年度は、分子量分布が狭い側鎖R_f基の鎖長が8である{poly (perfluoro octyl) ethyl acrylate} (PFA-C_8)ポリマーブラシ薄膜を調製することにし成功し、また、そのポリマーブラシ薄膜の分子鎖凝集構造評価を大型放射光施設内の表面X線回折測定装置を用いて行った。これまでフッ素を有するポリマーブラシの調製を試みてきたが、その分子量分布を精密に制御することは困難であった。その打開策として、重合系にイミダゾール骨格のイオン液体をごく少量添加することにより、これまで2.0程度だった分子量分布を1.1程度まで狭めることが可能となった。また、調製したポリマーブラシ薄膜の分子鎖凝集構造の評価を大型放射光施設SPring-8の表面X線回折測定装置により行った。その結果、これまで分布が大きいサンプルでは側鎖R_f基が基板表面に対して垂直に充填している構造が確認されていたが、今回調製した分布が狭いポリマーブラシ薄膜中では、側鎖R_f基は基板に対して平行は凝集状態を示していることが明らかとなった。また、この分子鎖凝集構造の違いに起因して表面物理特性のひとつである撥水特性の検討を行ったところ従来の結果と異なっていることが確認された。また、側鎖R_f基の鎖長が8であるPFA-C_8以外に側鎖R_fの鎖長が4である{poly (perfluorobutyl) ethyl acrylate}の重合系に関しても、重合を行ったところPFA-C_8と同様に分子量分布が狭くなったことが確認できたため、側鎖長に関わらず、フッ素のアクリレート系ポリマーに対して適応が可能であることが示唆された。採用3年目にあたる平成23年度は、より詳細な凝集構造と表面特性発現の関連を検討するため、分光エリプソメトリーや水平力顕微鏡観察、誘電緩和測定を併用して実験を行う。
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