グレリンは、胃から主に放出されるペプチドホルモンで、成長ホルモン分泌亢進など中枢に対する作用がよく知られている。作用発現には脂肪酸修飾が必要であることがグレリンの構造上の特徴であり、脂肪酸修飾を持たない型をデスアシルグレリンという。これまでに申請者の所属研究室では、中枢からの消化管運動への影響も検討できるin vivoの実験系を用い、非ペプチド性グレリン受容体アゴニストが脊髄排便中枢に作用し大腸運動を亢進させることを報告した。この結果に基づき申請者は、ペプチド性グレリンは脊髄排便中枢への投与により用量依存性に大腸運動を亢進させること、また、デスアシルグレリンは単独投与によっては大腸運動に変化は起こさないものの、グレリンの効果に対しては抑制効果をもつことをこれまでに明らかにした。さらに脊髄におけるグレリンおよびグレリン受容体のmRNA発現が確認され、グレリンが神経伝達物質として作用する可能性が示唆された。 前述の結果をふまえ、申請者は当該年度、グレリンの大腸運動亢進作用をさらに詳細に検討し、脊髄から大腸運動を亢進させるに至る経路が骨盤神経であることを特定した。また、この脊髄を介するグレリンの大腸運動亢進作用は、大腸内腔圧を上昇させることにより誘発される蠕動亢進には必須ではないことを明らかにした。本研究の最終的な目的であるグレリンと病態との関与について検討するために、覚醒下の実験条件の検討を行い、無麻酔下のラットへのグレリンの脊髄腔内投与方法を確立した。また、ストレス下の状況は既存のコルチコトロピン放出ホルモン投与による手法を用いた。グレリンとストレス、そして消化管運動の相互関係について確定的な結論を導くまでの結果は得られなかったが、予備的な実験は進んでおり、近い将来に結論が導かれ、過敏性腸症候群などの消化管疾患の病態解明に寄与すると期待される。
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