腸管上皮様Caco-2細胞を用いる試験で高い腸管バリア保護効果の認められた乳酸菌株を用いて、培養条件の違いがリポテイコ酸(LTA)含量におよぼす影響について検討した。乳酸菌から細胞壁画分を抽出し、HPLCによりD-alanine量を定量した結果、37℃培養かつ菌の増殖期にD-alanine合成が盛んに起こることが示された。また、M17培地濃度は4.25%が基本であるが、2%培地、10%培地で、それぞれ37℃16時間培養した結果、10%培地で培養した菌に多くD-alanineが検出された。一方、2価イオンの添加によってD-alanine合成に関わるdltオペロンは制御を受けることが知られていることから、MgSO_4濃度の高い培地で培養したところ、D-alanineは減少した。従って、dlt発現を指標に培地中イオン濃度を制御することによっても、D-alanineを高含有する乳酸菌を作出することが可能であると推察された。 Caco-2細胞単層膜にTNF-αを加え、バリアに損傷を与えた。上記種々の培養条件下で培養した乳酸菌体を本アッセイ系に添加し、腸管バリアの指標となる経上皮電気抵抗(TER)値、および、炎症マーカーとして培地中IL-8濃度を測定した。D-alanine量の高かった37℃16時間培養した菌は、TNF-αによるTER低下およびIL-8産生亢進を有意に抑制した。また、D-alanine量の高かった10%培地で培養した菌体は、2%あるいは4.25%培地で培養した菌体と比較して、TER低下抑制効果およびIL-8産生抑制効果が強く認められた。さらに、培地にMgSO_4を添加して培養した菌体の腸管バリア保護効果は、D-alanine量とよく相関した。これらのことは、LTA中のD-alanineが腸管バリア保護活性の本体であることを強く示唆するものである。
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