太陽活動の成層圏大気と気候への影響を評価するためには、11年周期の太陽活動とエルニーニョ/ラニーニャや赤道下部成層圏準二年周期振動(Quasi-biennial Oscillation ; QBO)が10年スケールで変わる影響、1980~2000年の期間に偶然起こった2度の火山噴火に伴う火山性エアロゾル変動のように太陽活動と周期の似た変動の影響を分離する必要があると考えられる。これらの影響を分離するため、化学気候モデル(Chemistry Climate Model ; CCM)で過去気候再現実験を行い、その実験に対し火山性エアロゾル、太陽活動、QBOやエルニーニョ/ラニーニャと関係する海表面温度変動を個別に外した感度実験を行った。感度実験の結果を元の実験結果と比較することで、個別の影響を評価することが可能となる。 CCMによる1980年~2000年までの連続計算とその感度実験を行うことで、赤道成層圏上部のみならず、赤道成層圏下部のオゾン濃度と気温にも太陽11年周期の影響が及んでいることがわかった。従来困難であった太陽11年周期変動に伴う成層圏下部のオゾン濃度および気温への影響の抽出に成功したことは大きな成果である。成層圏下部ではオゾンの化学寿命が長いことから、その影響は主にオゾンの輸送を介すると考えられる。そこで、太陽定数をそれぞれ極大値と極小値に設定して42年間計算する定常計算を行い、オゾン輸送を担う子午面循環などの太陽活動による違いを調べた。その結果、極大期と極小期の間で成層圏下部の子午面循環や気温などに有意な差が生じ、それがこの赤道成層圏下部のオゾン濃度の差を生じさせていることがわかった。 今後は計算のアンサンブル数の増加、より長期の計算、化学気候モデル検証国際プロジェクトで行われた他のCCMの解析等を行い結果の信頼性を高める必要があると考えている。
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