冬季北半球の成層圏には強い西風で特徴づけられる極渦があり、その年々変動は赤道成層圏に存在する準二年周期振動(Quasi-biennial Oscillation; QBO)や太陽11年周期の影響を受けて変化する傾向にある。また成層圏の極渦変動は対流圏の北極振動(Arctic Oscillation; AO)の前駆現象となることが指摘されており、対流圏の気候を予測する上で成層圏のプロセスを理解することが重要と考えられる。今年度行った研究では、QBOが成層圏の極渦変動に及ぼす影響について、従来指摘されていた赤道下部成層圏50hPa付近の高度のQBOに伴うプロセスのみならず、それより上空の10hPa付近のQBOに伴うプロセスが重要である可能性を化学気候モデル(Chemistry Climate Model; CCM)と客観解析データを用いて解明した。赤道域ではQBOに伴い、50hPa付近の高度が西風の際に10hPa付近では東風となる傾向にある。このため10hPaでは北半球側に定常惑星波が伝播できない領域ができ、北半球中高緯度から伝播してくる惑星波は、この高度の北緯30度付近で相対的に砕波/散逸しやすくなる。波の砕波/散逸があるとダウンワードコントロールにより、それより低い高度の循環が変わる。これが中緯度成層圏で断熱加熱による高温偏差を形成し、また温度風の関係から極渦を強化する。同時に中高緯度における波と平均流の相互作用も極渦を強化する傾向を示した。これによって、赤道10hPa付近の東西風と極渦変動との関係を、CCMと観測の両方から説明することができた。今年度の研究で明らかにされたQBOの極への影響プロセスが、太陽11年周期の影響を受けてどのように変わるのか、また、対流圏へはどのように影響するのか、についての解析を次年度(最終年度)に計画している。
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