研究概要 |
Fermi衛星が打ち上げられてから、2年8カ月が経過したが、私が研究対象としている銀河団からのガンマ線放射は、未だ有意には検出されていない。現在のところ銀河団のガンマ線フラックスの上限値として10^-9~10^-8[photon/cm2/s](100MeV-300GeV)が得られており、多くの理論研究者が、予想していた値よりも低くなると見込まれている。随時データをアップデートしながらガンマ線の探査を続けているが、今年度は、後にFermi衛星による結果と比較して考察を行う予定である「すざく」衛星によるX線データを解析しておくことが得策であると考えた。私が主提案者となって「すざく」衛星を用いて観測した近傍銀河団A3627の解析を進めた。銀河団を満たす高温ガスの密度、温度の空間分布を詳細に調べた結果、これまでひとつに見えていた銀河団が、秒速1500km程度で衝突合体している2つの銀河団の重ね合わせであることが分かった。これほど大質量の銀河団同士の衝突が、これまでに観測された例は少なく、近傍宇宙の重力進化を議論する上での重要なサンプルとなった。この結果は、日本天文学会とドイツで開かれた銀河団の国際学会で報告した。また,天体のデータを解析する上で、使用する検出器の健康状態をしっかりと把握しておくことが重要ぐある。そこで「すざく」衛星に搭載された硬X線検出器(HXD)に用いられているPINフォトダイオード検出器の軌道上較正作業を行った。PIN検出器により得られたデータから、軌道上における放射線損傷により徐々に増加しているノイズを除去する作業を行い、解析に必要な検出器応答関数の作成を行った。HXDの軌道上較正の現状を、HXDチームを代表して、サンディエゴで開かれた検出器会議(SPIE)で報告した。
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