申請者は、平成21年6月3日から7月10日にかけて、ネパールで第一次現地調査を行った。この期間では、当初の計画通り、1.カトマンズ市場の歴史的発展経緯、2.宝飾商人の間で流通する商品の品質・相場を調査した。1.の結果、カトマンズの市場は移民商人から構成された、比較的新しい市場であること、2.の結果、さまざまな出自から構成される宝飾商人の、商品知識・情報は必ずしも一致していないことが明らかとなった。情報が散漫な中で、売り手と買い手がどのように取引をスムーズに遂行するのか、またいかにドースト関係が築かれるのかが次回の課題となった。申請者は、一時調査で得た結果を、7月17日に「首都大学東京社会人類学会」で、10月3日に「日本南アジア学会」で発表した。これらは、研究論文における「市場の特徴」の基本データとなるため重要である。 平成21年11月13日から12月8日に、第二次現地調査を行った。この期間、ある宝飾店舗に滞在し、取引者の間で形成される「ドースト(友人)」について調査を行った。その結果、取引におけるドースト関係は、プライベートに築かれるものとは異なり、売り手と買い手の二者間でのみ確認されるものであること、つまり、第三者には開示されないものであることが明らかとなった。取引者間の親密な関係が公にされない理由は、第三者との商売上の競争や嫉妬を防ぐためである。
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