「水の窓領域」と呼ばれている軟X線領域(250~500eV)では、水のX線吸収率が炭素・窒素の吸収率に比べて一桁小さい。本研究の最終目的は、この特徴を活かし、脱水の必要なく生体細胞や高分子構造の元素マッピングが可能な軟X線顕微鏡の開発を実現することである。研究1年目に当たる平成21年度は、「超高分解能撮像法の実現に向けた基礎研究」を目的として研究を行った。高分解能を持つ高分子(レジスト材)に密着露光して試料の型を取り、原子間力顕微鏡(AFM)等で観察する手法で、既存の機器では不可能なナノオーダーのマッピングを可能にしようというものである。 文部科学省の「先端研究施設共用イノベーション創出事業ナノテクノロジーネットワークプログラム」(以下、ナノネット)の支援を受け、九州シンクロトロン光研究センターにおいて各種レジスト材の水の窓領域軟X線への感光特性を評価した。水の窓領域におけるレジスト感度を評価した例は他にない。単色X線を照射し、詳細な感度評価を行った結果、世界で初めてレジストの感度と水の窓領域X線の波長(エネルギー)との間に相関があることを確認した。これは、炭素・窒素・酸素のK殻吸収が高分子への放射線照射効果に大きく寄与していることを実験的に確かめた初めての例である。また、ナノネットの支援を受け、大阪大学産業科学研究所において電子線描画装置や集束イオンビーム装置を用いたレジストの解像度評価を行い、実際の撮像試験への準備を進めてきた。同時に、各種高分子への各種放射線照射効果の研究についても成果を挙げている。レジストを用いた撮像プロセスの最適化を行う上で放射線化学反応の解明は不可欠であり、ナノ構造体分析という本研究の最終目的のための基礎研究としても重要である。本研究の成果は論文や国際学会において社会に還元し、評価を得た。(論文2本、投稿中2本、学会発表2件)
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