本研究の目的は、バキュロウイルス感染細胞で見られる宿主遺伝子特異的発現(転写)抑制(shut off)機構を解明することである。これまでの研究によりバキュロウイルスの持つエンハンサーであるhr5を付加することにより宿主細胞ゲノム中にshut offを回避できる領域を作製することが可能であった。shut offは転写段階で起こり、かつ宿主遺伝子の大部分に同時に作用することが報告されている。バキュロウイルスの感染により細胞核内にvirogenic stroma(VS)とよばれる領域が形成され、その領域でバキュロウイルス遺伝子の転写やウイルスゲノムの複製が活発に行われることが報告されており、hrはVSの形成に必須である。hr5の付加により、宿主ゲノム中にshut offを回避できる領域を作ることが可能であったことから、VSに集積する因子の中にshut offに影響する因子も存在していると考え、それらの因子の同定を試みた。こで、本年度は共免疫沈降法(co-IP)を用いてIE1と相互作用する因子の同定を目標として研究を行った。まず、co-IPを行うためにIE1の可溶化条件の検討を行った。しかし、ピストンを抽出することができる2Mの塩濃度を用いてもIE1の可溶化を行うことができなかった。この結果からIE1は核マトリクスに存在しているのではないかと考えた。高塩濃度の抽出法以外にDNase Iを用いて核マトリクスを抽出する方法が確立されているため、その方法を用いて再度IE1の分画をおこなったところ、やはりIE1は核マトリクス画分に抽出された。低濃度のイオン性界面活性剤により可溶化させた試料を用いて、co-IPを行ったところ、複数個のタンパク質を単離したので、現在MALDI TOF-MS解析を用いて同定中である。
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