本研究の目的は、「有機化学における精密高分子合成のように樹-状ポリシロキサンを精密に合成し、得られた樹状シロキサンをビルディングブロックとして新規シリカ系ナノ材料の合成を行う」ことである。本年度は2件の研究を平行して進めた。 i)24個のSi-H基を有する球状シリケートデンドリマー(DMS-1)の展開 2010年度までに合成したDMS-1のSi-H基の反応性について、2つの観点から調査した。まず、Si-H基の存在により分子単独の熱的挙動がSi-Me基のみで覆われた同様のデンドリマーTMS-1と大きく異なることを明らかにした。次に、DMS-1結晶膜を空気中で加熱処理することで、酸素によるSi-H基の酸化と縮合がおきていることを指摘した。以上の結果を総括した結果、DMS-1は溶媒に溶解する最小級のシリカ系ナノ粒子であるとともに、表面Si-H基を利用することでナノ材料合成のビルディングブロックとしても使用できることを示した。本成果は対外的にも評価が高く、Chemistry-A European Joumal誌のVery Important Paperに選出されると共にFrontispieceに採択された。 ii)安定なSi-OH基を8個有するシリケートオリゴマーの合成 Si-OH基は酸化物骨格の形成能や結晶化などに代表される構造規定能などを有した有用な官能基であるが、室温で縮重合する不安定な官能基として知られている。今回、空気中で安定に保存できるSi-OH基を8個有するケイ酸塩オリゴマー[Si8O20(SiPh2OH)8]の合成に成功した。一方で、Si-OH基はトリメチルクロロシランによる完全なシリル化ならびに加熱による縮合が可能なことから、本オリゴマーがビルディングブロックとして利用できることを明らかにした。 本研究成果も対外的に評価が高く、New Journal of Chemistry誌のCover pictureに採択された。 以上の2件の研究は、無機合成化学において有機合成のような精密設計を可能とすることを示す結果であるとともに、より高度なケイ酸塩化学の発展に繋がると期待できる。
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