研究概要 |
文章理解における状況モデルと実世界との視空間的類似性に関する研究を以下のように進めた。本研究の最大の関心は「ワイングラスを床に落とした」という文から「ワイングラスは割れた」のような常識的な推論をどのようにして人間が行うか解明することである。文レベルの心理言語現象であるこの問題にアプローチするためには,まず「『ワイングラス』とは何か」「『落とす』とはなにか」という語彙知識を人間がどのようにして獲得・表象しているかについて説得力のある仮定を置かなくてはならない。 本研究では語彙知識理論として上述の言語統計解析を有望視しているが,言語統計解析が実際にどの程度語彙知識として妥当であるかを示すために,まずは単語レベルの現象について検討する。 単語レベルの現象としては,「連想」「プライミング効果」を対象とする予定である。いずれも人間の意味記憶を反映する現象として多くの研究がなされている。連想について,LSAと大規模連想データベースとの比較を行いLSAが人間の連想を上手く説明することを当該年度の研究において示した。プライミングについて,自動的処理を反映するSOA250条件と制御的処理を反映するSOA700条件でLSAが示す単語間類似度との相関の程度が異なることを当該年度の研究において示した。 上記の研究により,言語統計解析の語彙理論としての妥当性がある程度保証されたならば,次に文レベルの現象に直接アプローチする。単語レベルの現象を言語統計解析で説明しようとした研究は数多いが,文レベルの現象についてはごく少ない。そのため,まずは叩き台として本研究から新しいモデルを提案する必要がある。 上述の「ワイングラスを床に落とした」という文から次に何が起こるかについて生成させた行動データを当該年度に心理学実験により収集している。
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