一般的に、加齢に伴い抗酸化物質が減少し、抗酸化ストレス作用を有するGSTの発現量は加齢によって減少すると考えられてきた。しかし、ヒト顆粒膜細胞においてGSTT1を除く全てのGSTの発現量が加齢によって減少していることが示され、GSTT1が卵子や顆粒膜細胞において、生殖細胞に特異的な高齢不妊マーカーとなりうることが示された。そこで、本研究において卵子や顆粒膜細胞におけるGSTT1の機能および加齢により発現が亢進する理由を明らかにし、生殖細胞の老化における分子機構の解明並びに、将来的な不妊検査や治療法の開発に役立つことを目的とし研究を進めてきた。 前年度の結果よりGSTT1はGSTの転写因子であるNrf2に転写制御を受けていない可能性が示唆され、酸化ストレスなどの様々なストレスによって動くMAPキナーゼp38との関連性が示唆された。 そこで、Nrf2の阻害剤であるall-trans retinoic acid(ATRA)によりGSTT1の発現が抑制されるかRT-PCR法および免疫蛍光抗体法により検討を行った。ATRAを処置したKGN細胞においてGSTA1、GSTM1の発現は有意に抑制されたが、GSTT1の発現は全く抑制されず、GSTT1がNrf2に転写制御を受けていない可能性が強まる結果となった。GSTT1の発現制御に関わる分子群を特定するために、GSTT1の過剰発現および発現抑制系を作成し検討を行なった。p38の下流には様々な転写因子が存在し、細胞の成長や分化に関わるとされるGATAファミリーもその一つである。中でもGATA-1、GATA-4、GATA-6は内分泌細胞において様々なステロイド産生や遺伝子発現に関与することが明らかとなっており、FSHとの関連性も報告されている。NIH 3T3細胞およびHM-1細胞におけるGSTT1の過剰発現および発現抑制系を行なった結果、GATA-1、GATA-4、GATA-6の発現の変化が認められ、さらにGATA-1を過剰発現させることにより、GSTT1の発現が誘導されることが明らかとなった。GATA-1はセルトリ細胞などの生殖腺細胞、また造血系細胞に強く発現しており、それらの組織の機能形成に深く関与しているのではないかと考えられ、新たにGSTT1とGATA-1との関連性を示した。
|