H21年度までの研究によって、半導体中二次元電子ガス中で電子が感じる有効磁場を制御することで、電子スピンが非常に安定に回転することができる状態を作り出すことができる可能性を見出した。この外部電極を用いた電子スピンの回転制御技術、安定化技術は電子スピンのデバイス応用に直結する、極めて重要な技術である。H22年度は、外部電場を用いた電子スピンの安定化技術の完成、強磁性体から二次元雷子ガス中への電子スピンの注入実験の開始を計画した。 H22年度は、まず電子スピンを安定化し、スピン緩和(電子スピンの方向がばらばらになってしまう現象)を完全に抑制するために最適なInGaAs半導体ヘテロ構造の再設計を行った.具体的には、量子井戸中にひずみを印加するための組成制御、雷午の感じる有効磁場の大きさを制御するための量子井戸幅の最適化などを行い、作製した半導体ヘテロ構造の低温電気伝導特性を測定した。その結果、ゲート電圧によって量子井戸内のキャリア密度を制御した場合、通常の二次元電子ガスよりもおよそ50倍以上長いスピン緩和時間(電子スピンがばらばらになってしまうまでの時間)が得られた.理論的な解析から、我々が観測したスピン緩和時間の増大は、当初計画していた有効磁場の電界制御に起因した効果であることが実証され、電子スピンの安定化に成功した。 また、強磁性体電極からの二次元電子ガス中へのスピン注入実験にもすでに取り組んでおり、半導体量子構造の設計、デバイス構造の設計、デバイス作製、およびその磁気伝導度特性の測定までを行った。結果的には、半導体中への電子スピン注入を確認することはできなかったが、強磁性対電極と二次元電子ガスの間の距離やバリア層の最適化、印加電圧の調整などが重要であることがわかり、今後の実験によってスピン注入の達成が期待される。
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