分化したミネラルコルチコイド系はないとされていた真骨魚類では、高等脊椎動物でグルココルチコイドとして機能しているコルチゾルが電解質代謝にも関与しているとされていた。ところが魚類ゲノムでも、ミネラルコルチコイド受容体(MR)のホモログが発見されたことに加え、そのリガンド候補として11-デオキシコルチコステロン(DOC)が最近同定され、大いに注目を浴びていた。一方我々はこれまでに、コルチゾルがグルココルチコイド受容体(GR)を介して、高濃度で淡水適応に、低濃度で海水適応に寄与していることを、メダカ消化管の培養系を用いて明らかにしている。さらに、コルチゾルの双方向作用に対応して、リガンド濃度依存的に発現する標的遺伝子群の存在を確認している。 一方、性ステロイドの合成に必須の酵素P450c17-Iの機能を喪失している自然突然変異メダカsclにおいて、血中コルチゾルレベルが著しく高いことを発見した。このscl変異体を海水へ移行すると、野生型の場合より筋肉中の水分含量が低下していた。さらに、消化管では、GRや、海水中で塩と水の吸収に重要なNa-K-2Cl-共輸送体の発現が誘導されていなかった。MRの発現動態は野生型と同様変化がなかった。鰓では、野生型と同じくGRやNa-K-2Cl-共輸送体の発現が誘導されていた。 この結果は、メダカにおいて高濃度のコルチゾルは、GR依存的な消化管の海水型への分化を抑制することを示しており、in vitro系の結果と整合的である。 次年度はTilling(Targeting Induced Local Lesions In Genomes)法によりGR/MR遺伝子をノックアウトしたメダカを作製し、水・電解質代謝における副腎皮質ホルモン系の役割をさらに詳しく解析していく予定である。
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