研究概要 |
本研究員の研究目的は,現在まで本格的な分析の行われてこなかった戦時期における日本海軍の政治史的動向を、特にその期間内の大部分で海相及び首相を務めた米内光政に着目することで解明し、戦時期の政治史研究の深化に実証的な貢献をなすことである。平成21年度においては、東条英機内閣末期における海軍の倒閣運動と、米内光政内閣期の分析を行う予定であったため、防衛省防衛研究所図書館・国立国会図書館憲政資料室で戦前期陸海軍の関係文書を調査した結果、以下2点が明らかになった。 (1)東条英機内閣末期における海軍の倒閣運動について 先行研究において、海軍内諸政治勢力の動向は厳密に区別することなく論じられており、そのために海軍の動向が非常に多義的に解釈されていた。本研究員は、海軍内諸政治勢力の差異を明確にし、海軍内の岡田啓介・高木惣吉のグループが二次的に進めていたに過ぎなかった米内光政の現役復帰運動が、最終的に東条内閣の総辞職を引き起こしていたことを解明した。その結果、先行研究が注目してきた重臣の政治的役割が過大に評価されるべきでなく、政治過程分析においては執行権を持つ各省庁を分析する必要があるという提言をなし得た。 (2)米内光政内閣期の政策とマスメディアについて 現在まで、外交政策や当該期の新体制運動に注目が集まり、十分に分析されてこなかった米内光政内閣期の政策を、新聞史料を中心にして明らかにした。それによって、米内内閣が言論統制を強く行っていたことを明らかにするとともに、内閣が十分に統制を行っていなかった論理において世論が倒閣に傾き、陸軍の倒閣運動と結びつくことによって、米内内閣が総辞職を余儀なくされたことを解明した.この分析により、米内内閣の政策が初めて倒閣の要因として理解出来るようになった。
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