研究概要 |
SiCバイポーラトランジスタ(BJT)のさらなる高性能化を目指してIII族窒化物(AlGaN)をワイドギャップエミッタとして用いた、AlGaN/SiCヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)に取り組んだ。本研究では、AlGaN/SiCヘテロ界面での再結合電流を低減する目的で、エミッタ(n-AlGaN)とベース(p-SiC)の間に、n-SiCスペーサ層を導入した。AlGaN/SiC HBTのエミッタ接地特性から、スペーサ層膜厚を50,100,200nmと増やすことで、ゲインを2.7から4.7へと向上した。このゲインの向上は、スペーサ層膜厚を増やすに従って、界面再結合に寄与する正孔の数が減少したためと考えられる。さらに、ベース幅を最適化することで、従来より1桁高いゲイン11を達成した。これは、従来の常識(族の異なるヘテロ接合を有するトランジスタは動作しない)を踏まえれば、非常に高電流増幅率であり、特筆すべき点である。また、AlGaN/SiC HBTにおいて、今後高ゲインを達成するには、表面パッシベーションが重要である。そこで、本研究では、SiC BJTを用いて、表面パッシベーション技術の検討も行った。特に、SicC MOSFETの研究において、有力とされる窒化堆積酸化膜を検討した。作製したBJTについて、堆積膜+N_2アニールを用いた場合、ピークゲイン35を得た。一方、堆積膜+N_2OまたはNOアニールでは、ピークゲイン73,102と、N_2アニールの場合と比較して、2-3倍以上大きいゲインを達成した。このゲインの向上は、堆積膜+N_2O or NOアニール(窒化処理)による表面再結合の抑制によるものである。窒化処理によりSiO_2/SiC MOS界面準位が低減され、BJTのゲイン向上に寄与したと考えられ、本成果は堆積膜+窒化アニールによる表面パッシベーションの有効性を示したといえる。以上成果は、III-N/SiC HBTの高周波パワーデバイスへの展開を進展させるものであり、実用面のみならず、学術的意義が大きいと考える。
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