本研究の目的は、在日フィリピン人女性が生きる重層的親密圏がどのように構築され、維持されているのか、そこにはいかなるポリティクスが働いているのかを明らかにすることである。これをつうじて、従来、家族や移民ネットワーク、支援NGOなど別個に捉えられてきた各親密圏を、差異と共通性をふまえ、統一的に把握することができる。 平成21年度は、女性が重層的な親密圏をどのように生き抜いているのかを明らかにするために、在日フィリピン人女性の支援NGOにおける親密圏の位相の把握を目指した。 具体的には支援NGOを通じて、NGOのメンバー20名、カトリック教会のフィリピン人コミュニティのメンバー5名の計25名へのインタビューを行なった。うち国際結婚女性7名、シングルマザー18名である。あわせてNGOの活動における定期的な参与観察も行なった。NGOでは、イベントなどのほかに、メンバーの女性のエンパワメントを目的に自分自身の経験を語り合うワークショップを開催している。筆者は、NGOメンバーと協議し、当該ワークショップをフォーカスド・グループ・インタビューとしても位置づけることができるようにした。そのため企画段階からかかわり、テーマ選定、質問項目の作成や当日の記録を担当した。こうして、家族、子どもの教育、仕事をテーマにしたフォーカスド・グループ・インタビューを行ない、のべ44名の移住女性から話を聞いた。 以上をふまえ、21年度後半は、調査結果の公表に力を注いだ。具体的には、支援NGOにおける親密圏の構築のあり方について「オルタナティブ親密圏の構築、そして公共圏へ-在日フィリピン人女性支援NGOを事例として」としてまとめ、国立民族学博物館における機構連携研究「移民と国民国家」の研究会で研究発表を行なった。またそこで出された意見や質問をふまえ、研究論文『社会的連帯の再構築-公共圏/親密圏としての移住者支援活動』の一部としてまとめた。
|