前年度において、FISH法によって29の遺伝子がZ染色体にマッピングされており、そのうち5つがW染色体にもマッピングされた。今年度では、5つの遺伝子のうちCTNNB1とWACについて10科のヘビ種においてZとWホモログの塩基配列を解読し、分子系統樹を作製した。CTNNB1は動原体領域に、WACは末端領域に位置する。また、各遺伝子について4科のヘビ種においてはZホモログとWホモログの両方の配列が得られたのに対して、残りの6科の種ではZホモログの配列のみが得られた。二つの遺伝子の間で、ZホモログとWホモログの分岐パターンを比較した結果、ヘビの進化過程においてCTNNB1のZとWホモログ間の分化の方が、WACのZとWホモログ間の分化よりも先に起きたと推定された。哺乳類におけるXとY染色体間の分化や、鳥類におけるZとW染色体間の分化は末端領域から進行したと考えられている。ヘビにおける性染色体の分化はそれらと異なる方向で進行したと考えられ、性染色体進化のメカニズムを考察するための新たな知見を提供しうると考えられる。 シマヘビ雌1個体から12の受精卵を得て、産卵後0日の胚から性腺を摘出し、cDNAライブラリーを作製した。多くの脊椎動物種で性分化初期の性腺で発現する遺伝子であるDMRT1、SOX9、FOXL2、CYP19Aの発現量をRT-PCRによって雌雄間で比較したが、明瞭な雌雄差はみられなかった。前年度における産卵後4日、6日の胚を用いた同様の解析では、SOX9を除く3つの遺伝子について発現の雌雄差が見られた。このことから、産卵後0日から4日にかけて、遺伝子発現の雌雄差が生じると推定された。この期間の性腺における遺伝子発現を雌雄間で徹底的に比較解析することで、ヘビにおける性決定遺伝子の候補をあぶり出せると考えられる。
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