平成21年度は、社会福祉学や社会学の先行研究を読み込み、地域介護研究や「ケア」に関する先行研究の概略を把捉した。その上で、断続的に3回のフィールドワークを沖縄県八重山郡竹富町の波照島、西表島東部の2地域で行い、介護組織が結成された法的背景、離島的背景、構造的背景、及び、同組織の活動内容をそれぞれ明らかにした。また、介護保険法制定以前から活動を行っている西表島と法施行後に活動を開始した波照間島との比較を通じて、同法の意義や問題点を明らかにし、それらを「日本民俗学会」や「東アジア人類学研究会」で発表した。 加えて、収集した個別具体的なデータを礎に、本研究課題の主要な論点の1つである「親密圏」概念の有効性と限界について考察した。先行研究においては、「家族」という親密圏から個人を解放し、「家族」以外の地域住民が互いに配慮・気遣いし合う「新たな親密圏(公共圏から隔離され、感情とケアによって結びつく「私」領域)」の形成が可能だとされ、また、こうした理論に拠って平成12年に制定された社会福祉法には「地域福祉」という概念が打ち立てられた。しかし、2島の住民に対する詳細なインタビュー調査の結果、例え「家族」の外側に「新たな親密圏」が誕生したとしても、それは「家族」という「親密圏」を揺るがすものではないことが明らかとなった。こうした「親密圏」概念の限界と、「新たな親密圏」が担いうる役割の双方を具体的に明らかにしたことは、「親密圏」をめぐる理論的貢献という点において、その学術的意義は大きい。
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