平成22年度は、ケア論、家族論、及び公共性に関する研究動向を体系的にまとめ、それらの問題点を明らかにした。ケア論や家族論は「家族」を脱構築した先に「家族介護」や「家族」は消滅するのかという問いを放置している、という問題を指摘し、また、公共性に関する研究はイデオロギーが先行し特定の実践に公共性を見出す傾向が顕著で実証性に乏しい、という問題を抽出した。 その上で、地域住民が高齢者介護を通じて〈共同体〉の再起を図るという「新しい公共」と同定しうる実践に着目し、それによる「家族介護」や「家族」の変容をフィールドワークを通じて明らかにした。なお、調査地は平成21年度同様、沖縄県八重山郡竹富町の波照島と西表島東部とし、継続調査により厚いデータ収集に成功したことを特筆しておく。 調査を通じて次のことが導かれた。第一に、「家族」のケア機能こそ「家族」以外の地域住民にも代替可能だが、ケアを担うべき存在としての「家族」の位置づけは移譲されない。第二に、「家族」はく生/生命の配慮〉への拘束を「必然」として認識しており、そうした関係性こそ「家族」の関係性と観念されているが、それは象徴を見出す人間の能力によってもたらされている。第三に、「家族」が一義的に擁してきたケアの提供者としての位置づけは、「家族」の不在を契機に「家族」以外の人に移譲されうる。 前述の研究成果は「日本文化人類学会」「日本民俗学会」「九州人類学研究会」において口頭発表し、それを研究論文に昇華させ「九州人類学研究」に投稿した。「家族」や「家族介護」を構築主義的見地から論じることのアポリアを認識しながらも、「家族」の特質を本質化することなく提示したことは、家族研究に新たな見地をもたらしたという点で重要性が認められる。加えて、公共性に関する実証的研究が極めて少ない中で、その理論の限界と可能性を実証したことの学術的意義は大きい。
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