平成23年度は、八重山諸島における高齢者福祉の展開の調査で入手した一次資料を手掛かりに、それを<共同体>論の精緻化に展開する目的で、<共同体>や<共同性>に関する文献レビューを行い次の問題点を明らかにした。80年代に<共同体>が脱構築された後<非同-な共同性>に肉薄する形で<共同体>の再構築に挑む研究が積み重ねられているが、その多くは理論先行型で実証性に乏しいという点である。 その解決には一次資料から理論を導くことが重要となるが、手元の一次資料の価値を対象化するために、平成23年度は波照間島民の「戦争マラリア」に関する語りを収集し、それを福祉関連の調査で得た資料と比較検討し、<共同性>に関する次の知見を導いた。第一に、<共同性>は所与のものとして存在するのではなく、非同一な人々が「場所」を起点とした「身体感覚」の共有を拠所に、<この先>に創出するであろう理念としての同一性に<いま>を委ねる時に牽引されること。第二に、<いま>と自己同一化している日常にあっては、「イエ」を基軸とした親族単位での個別性・自律性が担保されること。第三に、「イエ」論理、「近代家族」の論理、「個人主義」の3つが輻竣した現在的状況が、人々に理念としての同一性に<いま>を委ねることを困難にしており、それが高齢者福祉をめぐる共同性の立ち上げをも困難にしていること。 前述の研究成果は「日本民俗学会」「American Folklore Society」において口頭発表し、それを研究論文に昇華させるべく現在鋭意執筆中である。本研究は、共同体や共同性に関する実証的研究が極めて少ない中で、地縁、血縁、アイデンティティを共同性の与件とすることなく、共同性を実証的に読み解いた点に学術的意義がある。
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