研究概要 |
これまでにほとんど研究が行われていない有機遷移金属錯体の素反応「β-ホウ素脱離」に注目し、この素反応過程の精査とこれを鍵とする触媒反応の開発を目的として研究を行っている。本年度は交付申請書の「研究実施計画」に記載した、「位置逆転シリルホウ素化の反応機構の解明」に取り組んだ。 まずシリルボランのホウ素とケイ素のどちらが先に有機分子へ導入されているかを明らかとするために、1,6-エンインを基質に用いてシリルホウ素化を検討した。配位子として立体的にかさ高く電子供与性の強いP(t-Bu)_2(biphenyl-2-yl)を有するパラジウム触媒を用いて反応を行ったところ、5員環形成を伴う付加が進行し、二重結合上にボリル基を有する環状化合物が70%の収率で得られた。この結果は反応性の高い炭素-炭素三重結合に対しシリルボランのボリル基がまず導入される反応機構を示唆しており、位置逆転シリルホウ素化が「β-ホウ素脱離」を経て進行しているという推定と矛盾しないことが明らかとなった。 次に、「β-ホウ素脱離」の進行を化学量論反応により明らかにすることを目的とし、シリルリチウムと(1-ボリルアルケン-2-イル)(ブロモ)パラジウムの反応による触媒中間体の合成を検討した。その結果、パラジウム中間体は反応性が高く分光学的手法ではその生成を確認できなかったものの、β-ホウ素脱離の進行を強く示唆するボリル基の1,2-転位を伴った付加生成物を得ることができた。 また、効率的にβ-ホウ素脱離が進行する要因を明らかとするために、様々なリン配位子を有するパラジウム触媒を用いて検討を行ったところ、t-ブチル基およびビフェニル基の両方を有するリン構造が重要であることが明らかとなった。 以上、本年度の研究によりβ-ホウ素脱離に関する基礎的知見を明らかとした。本知見は、この素反応過程を鍵とする触媒反応開発に資すると考えられる。
|