これまでにほとんど研究が行われていない有機遷移金属錯体の素反応「β-ホウ素脱離」に注目し、この素反応過程の精査とこれを鍵とする触媒反応の開発を目的として研究を行っている。 本年度はまず、交付申請書の「研究実施計画」に記載した、「研究項目(2)β-ホウ素脱離を基軸とする触媒反応の開発」に取り組んだ。末端アルキンの位置逆転シリルホウ素化により得られるアルケニルシランを基質に用いて、パラジウム触媒を用いる二重結合の位置異性化によるβ-ボリルアリルシランの合成を検討した。その結果、Pd[P(t-Bu)_3]_2にP(t-Bu)_3を添加する触媒条件を用いて反応を行うとE体のアリルシランが立体選択的に生成するのに対し、臭化アリールを添加し反応を行うとZ体のアリルシランが立体選択的に得られる、立体相補的な変換反応を見出した。また、それぞれの反応条件による異性化後、臭化アリール、水、および塩基を加えて加熱することで、異性化反応と連続するワンポット鈴木宮浦カップリング反応が立体保持で達成できることを明らかとした。 次に、同「研究実施計画」に記載した、「研究項目(3)得られた有機ホウ素試薬の合成的応用」に取り組んだ。末端アルキンの位置逆転シリルホウ素化により合成した化合物を、水酸化ナトリウムもしくは水酸化カリウムで処理したところ、ボリル基の近傍に位置するシリル官能基が関与する五員環ホウ素アート型錯体へと誘導できることを見出した。この手法で調製したホウ素アート型錯体は炭素-ホウ素結合の効果的な活性化が達成されており、塩基を存在させない温和な条件下でヨウ化アリールとの鈴木宮浦カップリング反応を進行させられることを明らかとした。 以上、本年度の研究によりβ-ホウ素脱離を基軸とする触媒反応の応用が達成され、有機合成上の有用性を明らかとすることができた。
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