研究概要 |
適切な遺伝子発現を実現して細胞のホメオスタシスを維持するためには,分解制御を通じたmRNAの発現量調整や異常mRNAの発現抑制が重要な役割を担う。同様に,タンパク質をコードしないnon-coding RNA (ncRNA)が適切に生理機能を発揮するためにも,RNAの分解制御が極めて重要な役割を果たすものと考えられる。近年,哺乳動物細胞では多数の核局在型のlong ncRNA(200塩基以上)が報告され,これらの生理機能も明らかにされつつある。核内long ncRNAの分解は,細胞質におけるmRNAとはまったく異なると予想されるが,その実態は解明されていない。そこで本研究では,哺乳動物細胞における核内long ncRNAであるMALAT-1及びMENε/βに着目することで,核内long ncRNAの特異的分解制御機構の解明を試みた。 細胞内RNAの分解を調べる手法として転写阻害剤を用いる方法が一般的に利用されているが,転写阻害剤が細胞に重大な影響を与えることが指摘されている。そこで,本特別研究員らは,転写阻害剤を用いない新規RNA分解測定手法「BRIC法」の開発に成功し,BRIC法が細胞増殖に影響を与えず,かつ,MALAT-1の局在に影響を与えないことを見出した。さらに,MENε/βとexosomeのコア構成因子に着目して解析を行った結果,本因子をノックダウンしたとき,(1)MENε/β量が蓄積し,(2)MENε/βを構造構築に必須とするパラスペックルの数が増加・巨大化し,(3)パラスペックル構成因子のひとつである転写制御因子PSFの下流遺伝子の発現量が低下することを見出した。これは,MENε/βの分解制御がPSFの機能に重要な役割を担っていることを示している。本研究成果は,核内long ncRNAの分解制御がそのRNAの機能を制御していることを明確に示した,世界で初めての報告である。
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