マウス一次体性感覚野バレル構造は、発生過程の神経回路形成メカニズムを解析する為の代表的なモデル系である。従来、バレル形成に関与する遺伝子が多く同定されてきたが、何故これらの分子メカニズムが生後一週間で駆動され、バレルが出生直後の特定時期に形成されるのかは不明であった。 平成21年度の研究では、「出産」のバレル形成時期制御における役割に注目し、主に神経回路レベルの解析を中心に進めた。その結果、以下の4点が分かった。 1、バレル形成時期は、出産時期により制御された。即ち、人為的に出産時期を変化させると、それに対応してバレル形成時期も変化した。 2、出産は、バレル形成のスピードではなく、バレル形成の開始タイミングを制御していた。 3、出産は、末梢から中枢への体性感覚系神経回路において、視床皮質回路レベルの成熟に選択的に働くことで、バレル形成の時期制御を行っていた。一方、より体性感覚神経回路の末梢側の、視床VPM核バレロイドの形成時期は出産とは独立していた。 4、バレル形成と同時期に進行するヒゲ傷害バレル可塑性の臨界期終了時期の制御は、出産から独立であった。 これらの結果は3点、(1)バレル形成時期制御のメカニズム、(2)出産の神経回路形成における新しい役割、(3)バレル形成とバレル可塑性の異なる時間制御メカニズムの存在、を明らかにした。「出産」という観点から神経回路形成・可塑性の新たな分野を開拓した点が独創的であり、意義深い。
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