研究概要 |
今年度の研究目標は,異なる糖源を用いて培養した大腸菌の各トランスクリプトームを次世代シーケンサ(Illumina/Solexa GAII)を用いて比較し,カタボライト抑制に関連したトランスクリプトームの動態を明らかにすることであった.特にsmall RNA(200塩基以下の非コードRNA)に着目して転写ネットワークを再構築したことが本研究の新規性である.本研究において,まずシーケンス結果の比較解析から,キシロース代謝に関わる複数の既知遺伝子に対して存在している新規cis-アンチセンスRNAが,既知遺伝子と同調して発現していることを初めて示唆することができた.一方で転写/翻訳系に関わる遺伝子群の発現が環境の変化に対して頑強性を示すことも改めて示された.さらに新規非コードRNA遺伝子を432個予測し,その多くがキシロース存在下において,著しく発現量を増加させていることを見いだした.これらの成果の第一の意義はカタボライト抑制という古典的な機構にsmall RNAが大きく関わっていることを示したことにある.複数の糖源の混合培地において,大腸菌が使用する糖源を切り替える際に生じる遅延期の長さは糖源によって大きな差異があるが,その原因はいまだ解明されていない.今回示唆した新規非コードRNAがキシロース代謝に関わる遺伝子の発現を制御し,カタボライト抑制の強弱に影響を及ぼしていることが想像され,カタボライト抑制のより深い理解につながることが期待される.またトランスクリプトームの定量的な情報を得たことにより,各遺伝子の発現量が培養条件の違いによって大きく変動する中でtRNAとコドン使用頻度の相関が保たれていることを改めて示すことができたように,今回得た大腸菌におけるsmall RNAの網羅的シーケンス結果は非常に応用範囲が広く,今後公共性の高いデータベースに集約されることが期待される.
|