細胞極性制御因子aPKC-PAR複合体が上皮細胞の極性を制御する分子機構を解明することを目的とし、aPKC結合タンパク質KIBRAの上皮細胞極性形成への関与を検討した。RNA干渉法によって安定的にKIBRAの発現を抑制したMDCK細胞株での解析により、KIBRAは密着結合形成に関与すると考えていたが、さらなる詳細な解析によって密着結合への関与は薄い可能性が示唆された。免疫染色法によりKIBRAの局在を再検討したところ、コラーゲンゲル中でシストを形成したMDCK細胞において、KIBRAは細胞接着面だけでなく頂端膜側にも局在することが明らかになった。そこで研究方針を変更し、aPKC-PAR複合体が制御すると言われる頂端膜形成へのKIBRAの関与を検討した。KIBRAの発現を約9割抑制したMDCK細胞株を用い、コラーゲンゲル中でシストを形成させたところ、頂端膜が顕著にふくれあがるという表現型が得られた。また、この細胞株を低カルシウム培地中で培養したところ、通常見られる頂端膜の細胞内への凝集が抑制された。これらの表現型はKIBRA発現抑制細胞内でaPKC活性が上昇していることを示唆している。そこでaPKC阻害剤を添加した低カルシウム培地中でKIBRA発現抑制細胞を培養したところ、KIBRA発現抑制細胞でも頂端膜の細胞内への凝集が観察された。また、in vitroでaPKC阻害活性を有するKIBRAのaPKC結合領域のみをMDCK細胞に過剰発現し、低カルシウム培地中で培養したところ、頂端膜の細胞内への凝集が促進された。以上の結果はKIBRAがaPKC-PAR複合体の阻害を介して上皮細胞の頂端膜形成を負に制御し、頂端膜の恒常性の制御に関わっていることを示している。本発見により、長らく不明であった頂端膜形成制御の分子メカニズムの一端が明らかになったと考えられる。
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