前年度より引き続き、細胞極性制御因子PAR-aPKC複合体が上皮細胞の極性を制御する新規分子機構を解明することを目的とし、aPKC結合タンパク質KIBRAの上皮細胞極性形成への関与を検討した。前年度までの解析により、KIBRA発現抑制細胞ではアピカル膜形成が促進するという表現型が得られたが、この原因がアピカル膜のエンドサイトーシスが阻害されているためなのか、エキソサイトーシスが促進されているためであるかは不明であった。そこでEGFP融合p75神経成長因子受容体を用いてアピカル膜の動きを可視化したところ、新規合成されたEGFP融合p75の細胞膜上への移行量がKIBRA発現抑制細胞で顕著に上昇することが明らかとなった。このことはアピカル形成促進の原因が、アピカル膜タンパク質のエキソサイトーシスが促進しているためであることを示している。また、KIBRA発現抑制細胞で得られた表現型を確定するために、EGFP融合KIBRAあるいはaPKC結合領域を欠いたEGFP融合ΔC-KIBRAをレスキューした細胞株を取得した。全長のKIBRAをレスキューした場合は、KIBRA発現抑制によるアピカル膜の拡張を抑制することができたが、ΔC-KIBRAをレスキューした場合は、その抑制の度合いが弱いことがわかった。このことから、KIBRAはaPKCとの結合を介してアピカル膜の拡張を抑制することが示唆された。KIBRA発現抑制細胞にaPKC阻害剤を添加し表現型の回復がみられるかどうか解析したところ、aPKC阻害剤の添加により、KIBRA発現抑制細胞でのアピカル膜過形成を抑えることができた。以上の結果から、KIBRAはaPKC活性の抑制を介してアピカル膜のエキソサイトーシスに対し抑制的に働き、過剰なアピカル膜形成を抑え、上皮極性を維持していることが明らかとなった。KIBRAは最近ショウジョウバエで臓器サイズを制御するHippo経路との関与が報告されたが、本成果は臓器サイズを制御するHippo経路と細胞極性を制御するPAR-aPKC経路をつなぐ生化学的な証拠を初めて提示した。この成果はCurrent Biology誌に受理された。
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