門脈圧亢進症においては、類洞周辺部で活発に増殖する筋線維芽細胞の異常収縮や線維産生が、血流抵抗の増加に寄与すると考えられている。肝硬変の病態形成に際してプロスタグランジンの血中濃度が上昇することが知られており、本研究は、筋線維芽細胞の収縮機構ならびに線維産生機構への、PGE2を始めとしたプロスタグランジン類の関与を分子生物学的に解明することを目的とした独創的な研究である。 今年度は線維芽細胞のコラーゲン産生能に対するプロスタグランジンの作用を明らかにするため、TGF-βによる線維芽細胞のコラーゲン産生能に対するプロスタグランジンの作用を検討したところ、PGE2の前処置は10-8M以上の濃度で顕著に線維産生を抑制した。またこの抑制作用は、EP2受容体とEP4受容体のそれぞれの作動薬によって再現された一方、EP1受容体とEP3受容体の作動薬では観察されなかった。PGD2も、PGE2と同様に線維産生を抑制したが、10-7M以上の比較的高濃度でのみ作用が見られた。PGD2にはDP受容体とCRTH2受容体の2つの受容体が知られているが、DP受容体作動薬であるBW245Cでのみ抑制作用が再現された。これらの結果から、PGD2はDP受容体を介して線維産生を抑制していることが明らかとなった。DP受容体の下流シグナルにcAMPを介した経路が関与する可能性を検討したところ、PGD2ならびにBW245Cの刺激によって線維芽細胞内のcAMP量が顕著に増加した。また、forskolinならびにdibutyryl-cAMPによる前処置によっても、線維産生は抑制された。以上より、線維芽細胞にはPGD2受容体を介したコラーゲン産生抑制機構が存在することが明らかとなり、そのシグナル伝達にはcAMPを介した経路が関与する可能性が示唆された。
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