臭化鉛を無機層とした有機・無機複合層状ペロブスカイトにおいて、有機層に導入する機能性分子として、n型有機半導体として知られているナフタレンジイミド誘導体(NDI-en)を合成し、導入を試みた。その結果、単結晶の合成の過程で用いた貧溶媒の種類によって、結晶構造の異なる3種類の有機無機複合体(NDI-en)Pb_2Br_6・2.5H_2O(1)、(NDI-en)PbBr_4(2)、(NDI-en)_2PbBr_5・1.8H_2O(3)を作り分けることに成功した。このうち1は層状構造、2及び3は一次元カラム構造を有していた。NDI-enはn型有機半導体であるので、光照射によって電子正孔対を生成させれば、1においては電子はNDI-en層、正孔は臭化鉛層に電荷分離され、光電流が流れると考えられる。残念ながら現在のところ光電流の観測には成功していないが、これは分子サイズレベルでn型とp型の半導体が交互に、しかも単結晶であるので非常に精密に積層した初めての化合物であり、このようなアプローチは今後の有機太陽電池等への応用へもつながると考えられる。また、3は原料にはない黒色の結晶であり、電気伝導度も室温で5Scm^<-1>と比較的高い値であったことから電荷移動錯体となっている可能性が示唆された。そこでESRスペクトルなどを解析したところ、NDI-en一分子あたり0.5電子還元され、ラジカルが生成していることが明らかとなった。ナフタレンジイミド骨格を有するラジカルは溶液や粉末では種々研究されていたが、単結晶としてラジカル種を捉えた例はなく、3はその初めての例である。これらの結果は今後の伝導性超分子等の設計においてもインパクトを与えるものと考えられる。
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