研究概要 |
本研究を遂行する上で不可欠な,ヌクレオソーム構造をはじめとする様々なDNA-タンパク質複合体の構造・動態をナノスケール・サブセカンドスケールで可視化解析する技術の確立に向け,本年度は液中高速原子間力顕微鏡によるDNA分子の観察・解析を進めた.溶液中におけるDNA鎖の運動が探針による高速走査の影響を受けていないか定量的に評価するために,環状プラスミドのイメージングを1~3fps(フレーム/秒)の異なる走査速度で行い,各走査条件におけるDNA鎖の平均曲げ弾性エネルギーの分布を算出した.その結果,我々の観察条件では,高速操作がDNAの形態や動きに与える影響はほとんどなく,観察されるDNA鎖の運動は熱揺らぎによるものであることが示された.この知見は,今後DNA-タンパク質複合体の時空間解析を行う上で,重要な基盤になると考える.ヌクレオソーム構造が熱揺らぎにより動的な性質を示すことは先行研究により示唆されてきたが,本年度は線状プラスミドDNA上に再構成したヌクレオソームの動態を2fpsという走査速度で可視化解析することで,溶液中におけるその動的側面を捉えることに成功した.観察の結果,(1)ヌクレオソームの相対的な位置関係が,溶液中において自発的に変化しうること.(2)観察された変化はおよそ50nm以内であったこと.(3)ヌクレオソーム構造が崩壊する際には,ピストン八量体が直接解離する,または,ヒストン八量体がサブユニットに分かれたのち順次解離するという二つの様式があること.(4)(3)において,特に後者の場合,二つ目のサブユニットの解離は一つ目のサブユニットの解離にかかる時間と比べて,二桁程度短い時間スケールで起こることが示された.この結果はヌクレオソームの安定性やクロマチンリモデリングの分子機構を理解する上で,重要な知見となると考える.
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