研究概要 |
本研究を遂行する上で不可欠な,DNA分子状における酵素反応をナノスケール・サブセカンドスケールで可視化解析する技術の確立に向け,本年度は液中高速原子間力顕微鏡による各種DNA-酵素複合体の一分子経時観察・解析を進めた.特に酵素反応のモデルシステムとして,IIF型制限酵素SfiIによるDNA鎖の切断反応,E.coliのRNAポリメラーゼ(RNAP)による転写伸長反応に焦点をあてた.SfiIは1つの四量体分子がDNA鎖上の2つの認識配列に同時に結合し,両方の部位で二本鎖DNAを切断する酵素である.SfiIの結合によってつくられるDNA-SfiI複合体ループ構造を溶液中で経時観察することで,DNAループが切り出される切断反応過程を2フレーム/秒(fps)という走査速度で可視化することに成功した.この結果はDNA修復や組換えに関わる各種酵素活性の一分子動態可視化解析を促す端緒となりうる.RNAPの解析では,(1)DNA鎖上のプロモーター領域以外の部位に非特異的に結合したRNAPは一次元拡散運動により鎖上をランダムに移動すること.(2)一度,プロモーター領域結合したRNAPは安定にプロモーター領域に留まること.(3)各NTPが供給された場合,DNA鎖上を一方向に移動しながら転写を行うことを示唆するデータが得られた.原子間力顕微鏡によるRNAPの動態解析は10年以上前から試みられているが,本研究では過去のに報告された研究例の10倍以上の時間分解能で可視化解析することに成功した.以上の観察・解析例は,今後クロマチンリモデリングや構造タンパク質存在下での酵素反応等,より複雑な反応過程の時空間解析を行う上で,重要な基盤になると考える.
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