研究概要 |
本研究は、昆虫嗅覚受容体複合体が'匂い'という化学信号を'神経発火'という電気信号に変換する分子基盤を明らかにすることを目的とし、今年度、交付申請書に記載した研究計画に基づき研究を実施した。実際に解析する分子として主にアフリカツメガエル卵母細胞発現系において効率良く発現するカイコガ性フェロモン(bombykol)受容体BmOr-1およびカイコガOr83bファミリー受容体BmOr-2を用いた。 1.昆虫嗅覚受容体複合体の活性化機構の解析 (1)昆虫嗅覚受容体の匂い結合部位の解析:BmOr-1のbombykol結合部位を同定するため、bombykolの-OH基と水素結合を形成しうるアミノ酸部位(Ser,Thr,Tyrなど)にそれぞれ点変異を導入してbombykol感受性への影響を検証した。その結果bombykolの結合部位の候補を13ヶ所見出した。現在これらのアミノ酸部位についてさらに解析中である。 (2)複合体の匂い応答に環状ヌクレオチド(cAMP,cGMP)が関与するか検証:昆虫の匂い応答における環状ヌクレオチドの役割の解析を行った。その結果、環状ヌクレオチドには昆虫嗅覚受容体の活性を細胞外側から抑制する作用があることを見出した。この結果は、昆虫の匂い応答において環状ヌクレオチドが細胞内セカンドメッセンジャー以外の役割を果たすことを意味する点で重要である。 2.昆虫嗅覚受容体複合体のイオン透過機構の解析 イオンの透過路であるポアを形成するアミノ酸を同定するため、BmOr-1,BmOr-2に点変異を導入しイオン透過性への影響を検証した。その結果、ポアを形成するアミノ酸の候補を8つ見出した。今回得られた結果は以下の2点から重要である。一つ目は、昆虫嗅覚受容体がイオンチャネルであるという我々が提唱するモデルが支持された点。二つ目は昆虫嗅覚受容体複合体のポア構造が通常の嗅覚受容体とOr83bファミリー受容体の両方により形成されることが示唆された点。
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