単一/少数有機分子系を機能性デバイスとして利用する分子スケールエレクトロニクス実現に向けては、個々の分子の電子状態や結合状態を高感度に測定することが必要不可欠となる。赤外光による分子振動励起を検出する顕微分光は非常に有効な手法である。しかしながら、これらの手法は光を照射し、その反応を観察するという特徴から、原理的な空間分解能の限界(100nm)が存在する。そこで本研究では、従来の電子状態分光や顕微分光の空間分解能の限界を超えて、単一分子/少数分子系の電子状態/結合状態を解析することを可能とする「光照射走査プローブ物性評価法」を新たに開発することを目的とした。本研究において酸化膜付Si基板上にpolyethylene glycol(PEG)やPDMSをスピンコートした試料に対し、中心波数1050cm^<-1>の量子カスケードレーザ(QCL)および自由電子レーザを斜め上方向から照射し、照射範囲内においてFM-AFM観察を行った。照射赤外光の強度を500Hz程度で変調し、カンチレバーの共振周波数シフトと散逸エネルギーの変調成分をロックインアンプにより計測することで、赤外光照射の影響を評価した。自由電子レーザにおいては相互作用の波長依存性についても評価した。この結果、PEG上およびPDMS上とSi酸化膜上では照射赤外光に対する周波数シフト量および散逸エネルギーの変化の波長依存性が異なっていることがわかり、FM-AFMを用いた赤外分光に成功した。さらに、FM-AFMにおいて最適実験パラメータの算出および実験を行い、従来よりも高感度な像の取得に成功した。
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