研究概要 |
イオン液体は構成分子間のCoulomb相互作用と液体構造の不均一性の為に、分子性液体と比較して特異な溶媒和ダイナミクスを示すことが知られている。しかし、統計平均の問題から、第一原理電子状態計算に基づき化学反応を扱った例は皆無であった。筆者は平衡統計力学に基づくRISM-SCF法を用いて化学反応を扱う手法を確立した。通常のRISM-SCF法は溶媒分子の構造を固定しているため、側鎖の短いイオン液体へ応用範囲は限られていたが、分子内構造揺らぎを含めたRISM法を多成分系に拡張することで、一般的な液体中の化学反応を扱うことを可能にした。 この手法を、butyl側鎖を持ったimidazoleイオン液体である[bmim][X](X=Cl,Br,or I)に適用した。構造揺らぎを含めたRISM法から、butyl側鎖のコンフォーメーションの挙動を調べた結果、2つのtrans配座が存在するTT体の存在比が、ハロゲンアニオンのサイズが大きくなるに従って増大した。これは、実験で観測されるラマン強度の傾向と一致している。TT対存在比の数密度依存性の解析により、ハロゲンアニオンのサイズの増大に伴い、イオン液体の数密度が減少するためであることが明らかになった。また、RISM-SCF法によって電子状態の観点からラマン強度を検討した結果、ラマン強度非の変化はTT体の存在比と、イオン液体の溶媒効果の差異が複合的に起因していることが示された。 以上はいずれも一次元溶媒構造に基づく手法であるが、三次元溶媒和構造を直接求めることが出来る3D-RISM-KH法を用いて、アスファルトのモデル分子であるPBP二量体のπ-πスタッキングにおいて、微量の水が果たす役割を検討した。スタッキングに沿った自由エネルギー曲線を求めたところ、微量の水により、PBPの凝集によって得られる安定化エネルギーが増大した。三次元溶媒和構造の解析から、これはPBPの窒素が水分子との水素結合によって繋がれる為であることを明らかにした。
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