TGF-β誘導性EMTと選択的スプライシングの変化の関係を解明することを目的として、研究を継続した。 これまでに、NMuMG(マウス乳腺上皮)細胞におけるノックダウンや過剰発現の実験から、TGF-βはZEB1とSIP1の発現を介してESRP2(epithelial splicing regulatory protein 2)の発現を抑制することを明らかにしている。そこで、ZEB1とSIP1に対する抗体を用いてChromatin IPを行った。その結果、ZEB1とSIP1がESRP2のプロモーター上にリクルートされていることを確認した。そこで、内在性のZEB1とSIP1の発現が高く、ESRPの発現が低いヒト乳癌細胞株(MDA-MB-231細胞、BT549細胞)を用いてZEB1とSIP1のノックダウンを行ったところ、ESRPの発現上昇が認められ、NMuMG(マウス乳腺上皮)細胞同様、ヒト乳癌細胞株においてもZEB1とSIP1によるESRP抑制機構が働いていることを明らかにした。さらに、MDA-MB-231細胞にESRPを過剰発現させ、colony formation assayを行った結果、コロニー形成が抑制されたことから、ESRPを過剰発現させた細胞では足場非依存的増殖能が低下することがわかった。また、ESRPを過剰発現させるとE-cadherinの発現が上昇したことから、ESRPは細胞にMET(mesenchymal-epithelial transition)様の変化を誘導することがわかった。このことは、スプライシング制御因子とEMTとの関与を示唆する結果であり、TGF-βによる新規のEMT誘導機構の解明につながると期待される。
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