CD8 T細胞は感染症や腫瘍の最終排除に決定的な役割を果たす一方、移植免疫においてはドナーと宿主間の組織適合抗原の不一致を認識し、移植片または宿主の組織を傷害する。中でも同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)患者において、移植片に含まれるドナーT細胞が宿主の正常組織を障害する移植片対宿主病(GVHD)を発症した場合、易感染性やワクチンへの不応性の原因となる液性免疫不全が遷延することが報告されている。その機序の一つとして、当研究室はこれまでに骨髄におけるB細胞の分化障害を報告してきたが、臨床的には末梢におけるB細胞数が回復した後にも、液性免疫応答が回復しないことが報告されており、その機序は未だ明らかでない。本研究では、CD8 T細胞依存的なGVHDを発症したマウスでは液性免疫応答の誘導組織であるリンパ節が萎縮するという予備データをもとに、ドナーCD8 T細胞が2次リンパ組織を傷害することで、allo-HSCT後の免疫不全が惹起されるという仮説をたて、B6→BDF1 allo-HSCTモデルを解析した。その結果、T細胞除去骨髄細胞(TCD BM)とともにCD8陽性T細胞を移入し、GVHDを誘導したマウスでは、移植後40日目の骨髄においてTCD BMのみを移植した対照群と同等に近いB細胞の回復を認めたが、リンパ節においては細胞数の著減による萎縮を認めた。組織学的解析をおこなったところ、gp38陽性間質細胞の消失、PNAd陽性HEV構造の乱れ、Lyve-1陽性成熟リンパ管の消失、さらには線維化を認めた。これらの病変は移植後160日を経過しても回復せず、また、同マウスではNP-OVAを皮下免疫した後のNP特異的抗体産生が減弱していた。これらの結果から、ドナーCD8 T細胞による2次リンパ組織傷害が、allo-HSCT後の不可逆的な免疫不全の原因になることが強く示唆された。
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