多摩ニュータウン(NT)開発が、地域社会にいかなる構造変動をもたらしたか。その開発手法はいかなる問題を孕み、地域の先人達はいかに乗り越えようとしたか。これらを地付層の生活史から考察し、これまでの郊外コミュニティ論・郊外論、都市計画・建築学の知見とは異なるNT像を提示した。1.NT開発に抗い、農地除外に成功した住民運動および、その運動を支援した専門家集団と施工者の対抗のなかで提言された「農住都市構想」の盛衰を考察した。成果は『日本都市社会学会年報』に掲載された。2.開発を進めた権力構造を明らかにするため、(1)旧地主有力者へのヒアリング(2)行政機構と議会構成の分析(3)多摩市の歳入・歳出分析を行った。結果、3点を明らかにした。(1)1967年以降、自民党政府-日本住宅公団-地主層と社会党-共産党-美濃部都政-市民層の対抗のなか、NT開発は進められた。(2)公団・都政・地元市政の制度的妥協による「行財政要綱」による財政措置により、(1)政府(2)革新都政・地域民主主義運動(3)地主有力者が対立しながらもNT建設を進めた。成果は地域社会学会で報告した。4.多摩市の産業構造・政治構造・空間構造の変化を分析し、開発の受益/受苦の構造を考察した。公団は農地を売却した地権者をNT周縁部の団地商店街へ誘導する一方、公団と民間資本が出資する「新都市センター」にNT中央部を譲渡し、大規模商業施設を誘致した。このような産業/消費空間のプランニングは、生活再建する地付層の事業・商売を衰退させる一因となった。公団は資本労働者である来住層の消費欲求を満たすため、開発の受益者たろうとした地付層を受苦者としてNTに包摂したとも言える。これらの成果は、11年度に論文として発表する。5.拙稿「多摩ニュータウン開発の情景-実験都市の迷走とある生活再建者の苦闘」(『地域社会学会年報』20)が日本都市社会学会若手奨励賞を受賞した。
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