女性ホルモンであるエストロゲンはエストロゲン受容体(ERα)に結合し、乳房の発達や維持、骨形成などに関与する一方で、ERαの転写活性化機構の破綻は乳がん発症の引き金となっている。近年、わが国における乳がん発症率は増加傾向を辿っていることから、乳がんの治療や予防を目的とした基礎的なERαの転写活性化機構の解明が急務とされている。乳がんを標的とした治療法であるホルモン療法は、他のエストロゲン依存性組織への影響や、腫瘍組織がホルモン剤に対して徐々に耐性を持ち、エストロゲン非依存的に増殖する能力を獲得するという問題がある。それゆえ、乳がんの治療において腫瘍特異的な性ホルモン応答機構の制御を実現することは重要課題である。 一方、悪性腫瘍は自身の生育する低酸素環境に適応するため、低酸素応答遺伝子の発現を亢進する。低酸素応答機構における主要因子として低酸素下でのみ安定に発現する転写因子である低酸素誘導因子(HIF)がある。本研究において申請者は、HIFの一つであるHIF-2αがERαと直接結合することで、ERαの転写活性を調節するという新規機能を見出した。さらに、HIF-2αはERαだけでなく、グルココルチコイド受容体の転写活性も調節することを見出した。また、ドミナントネガティブ体によるHIF-2αの機能抑制を目指し、HIF-2αのスプライシングバリアントの探索を行った。その結果、HIF-2αにはエキソン12から15までを欠損したスプライシングバリアントが存在していた。さらに、このバリアントはHIF-2αのドミナントネガティブ体として機能すること見出した。
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