研究課題
本研究課題は、インド西部マハーラーシュトラ州に分布する仏教石窟寺院のうち、先行研究によって看過されてきた同州南半部の造営例を研究対象として、実地調査による最新の現状記録を行い、基礎資料を再整備することを主旨とするものである。2年目となる平成22年度は、前年度に実施した、先行研究および研究代表者のこれまでの成果と課題の検討・把握を基に、本研究課題の主軸となる基礎資料の整備を重点的に行った。とりわけ、本研究課題の重点調査対象遺跡としているカラード石窟群について、GPS測定値、略測図、写真記録を中心に基礎資料の整備を行った。また同時に、研究成果の公表と関連領域の研究者との意見交換を目的として、6月にシンガポール、7月にオーストリア、11月に大阪において、それぞれ研究発表を行った。その結果、最終年度となる次年度の総括へ向けて、西インドの仏教石窟寺院がもつ同時代的な歴史的意義について示唆を得ることができたのみならず、研究史という言説を通した先行研究そのものの再検討という新たな問題意識へと発展させうる将来的展望をもつに至ることができた。さらに、本年度に重点的な基礎資料整備を実施したカラード石窟群に代表される西デカン地方南半部の石窟寺院群が、先行研究において石窟寺院造営の「中心」とされてきた同地方北半部からみて「周縁」の亜流様式として扱われてきたことを、その開鑿規模、様式的な多様性、僧院としての維持期間の長さなどから再検討しようとする本研究課題の主旨を補強するため、平成23年3月には、西デカン地方以遠ではあるものの、歴史的な地域間交流の存在から様式的関連が示唆されるグジャラート地方、マールワー地方の仏教石窟寺院群を実地調査し、先行研究においてほとんどなされてこなかった基礎資料の整備を行った。以上に述べた当該年度の研究内容から、前年度において到達目標としたインド亜大陸内陸部の小規模石窟群に関する基礎資料整備を順調に遂行できただけでなく、調査対象地域外における補完調査の実施により、基礎資料のさらなる充実と相対的視点の獲得を図ることができた。最終年度となる次年度は、基礎資料整備をさらに推進し、それを活用可能な形式(電子化、書籍化など)に公表するための道筋を定めるとともに、本研究課題完遂以降の将来的展望-具体的には上述したコロニアルな言説としての研究史の脱構築へ向けた取り組み-についても、具体的に意識化することを到達目標に掲げたい。
すべて 2011 2010
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件)
Patrick Daly and Tim Winter eds., Heritage m Asia. Sydney : Routledge.
巻: (発行確定)(未定)
Pierfrancesco Callieri and Luca Colliva eds., South Asian Archaeology 2007 : Proceedings of the 19th Meeting of the European Association of South Asian Archaeology. Oxford : Archaeopress.
巻: Vol.II : Historic Periods ページ: 225-232