研究概要 |
これまでに、1,1-ジプロモ-3,3,3-トリフルオロ-2-トシルオキシプロペン(1)とアリールボロン酸のパラジウム触媒による交差カップリング反応がCF_3基のシス位で立体選択的に進行し、対応するモノカップリング体が高収率かつ高ジアステレオ選択的に生成することを見つけ、本反応を鍵反応としてトリフルオロメチルを含むトリアリールエテンの立体選択的合成を達成している。しかしながら、本カップリング反応において、フリル基やホルミル基、アミノ基などヘテロ元素を含むアリールボロン酸を用いることはできなかった。これら含ヘテロ元素アリールボロン酸が反応条件下、容易にプロト脱ボリル化するためと考えられる。今年度は、カップリングにおける基質適用範囲の拡大を目指し、種々の有機金属反応剤、反応条件を精査した結果、アリールスズ反応剤を用いると、対応するモノカップリング体が立体選択的、かつ収率よく得られることを見つけた。また、反応機構に関して考察すべく、エノ-ルトシラート1の0価パラジウムへの酸化的付加体を得た。付加体の単結晶X線構造解解析の結果から、1は酸化的付加の段階において立体選択的にトリフルオロメチル基のシス位の炭素-臭素結合に挿入していることがわかった。また、フッ素-パラジウム間に相互作用が観測された。現時点では、トシラート1がフッ素でパラジウムと相互作用しながら酸化的付加した結果、高いジアステレオ選択性でモノカップリング体が生じたものと考えている。今後詳細な反応機構の解明が必要である。得たモノカップリング体の合成的利用の拡張を目指し、種々の反応を検討した結果、末端アルキンとの薗頭カップリング反応が円滑に進行し、CF_3置換エンインが立体特異的に収率よく合成できることも明らかにした。得たCF_3置換エンインは塩基および銅触媒存在下、トリフルオロメチル置換フランへ効率よく変換できることも見つけた。
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