ハドロン間の相互作用は、従来現象論的に求められてきたが、近年の理論的ブレークスルーにより、格子計算を用いてQCDより第一原理的に決定することが可能になりつつある。特に、現代の原子核物理においては、三体力の理解は最も重要な課題の一つとなっており、第一原理計算の意義は非常に大きなものがある。実際、三体力は、少数核子系における引力効果、対称核物質系における斥力効果など、多彩な性質を持つと考えられており、さらに近年では、超新星爆発や中性子星の性質に及ぼす影響や、中性子過剰核の性質への影響も指摘されるなど、宇宙・天体物理との学際分野でもある。このような重要性に鑑み、本研究では格子QCDによる三体力の第一原理計算を行ってきた。前年度は、三体系における有効二体相互作用というアプローチを開発・計算実行してきたが、この場合、三体力には間接的にしかアクセスできない。そこで、本年度は、三体粒子の座標について固定した配置の計算を行うことで、三体力を直接計算する手法を開発した。具体的には、三粒子が等距離間隔一直線上に並んだ配置での性質を調べ、この場合、三体力を不定性無く取り出すことが出来ることを示した。実際の計算は、二体力、あるいは有効二体力の計算に比べおよそ10-100倍にも達する非常に大変な、ものであるが、アルゴリズムの工夫やプログラムチューニングなどにより、計算を実行可能なものとし、結果として、近距離での三体斥力効果を見出すことに成功した。今後、系統誤差のより詳細な評価が必要であるが、これは核物質系や中性子星中心部などでまさに現象論的に必要とされていた効果であり、非常に意義深い成果と考える。
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