近年では、環境問題への対応策として石油系材料から持続生産可能なバイオマス(生物材料)への転換が求められている。また最新技術としてナノテクノロジー分野の研究も求められている。この双方を満たすのが自然界に存在するナノファイバーを利用したバイオベース・ナノテクノロジーである。 植物に含まれるセルロースナノファイバーの幅は3~4nmと人工ナノファイバーよりも遥かに細い構造をしている。当研究室ではTEMPO触媒酸化という水中・常温・常圧で進行する反応をナノファイバー表面に施すことにより、軽微な機械処理で、本来の幅と結晶性(約75%)を維持したセルロースナノファイバーを調製することに成功した。このTEMPO酸化セルロースナノファイバー(TOCN)はカルボキシル基、アルデヒド基という反応性の高い官能基をもつため、これらを足場として更なる複合反応を行うことができる。TOCNはそれ自体でも透明性、高いヤング率と引張強度、ガラスよりも低い熱膨張率、優れた酸素バリア性を有し、液晶ディスプレイや高機能包装材料への応用が期待されるが、耐水性や耐熱性に改善すべき課題がある。 本研究の目的は、TEMPO触媒酸化により得られるセルロースナノファイバーとさまざまな既存化合物を複合することで、セルロースだけでは発現しえない新たな高機能性を持たせることである。 本年度ではTOCNを無機物と複合し、新規有機・無機複合材料の調製を行った。TOCN表面のアルデヒド基を足場に銀ナノ粒子生成を行ったところ、直径数nmの銀ナノ粒子の生成に成功した。また研究の過程でカルボキシル基の対イオンをカルシウムなどのアルカリ土類金属、銀などの重金属に交換することによりTEMPO酸化セルロースナノファイバーの耐熱性を大幅に向上できることを発見した。
|