研究概要 |
iPS細胞は再生医療に向けた応用展開が強く期待されている。ヒトの患者から樹立されたiPS細胞を用いれば、倫理的および免疫的に問題のない、移植用の組織や細胞が作成可能になる。しかしながら、個々に樹立されたiPS細胞の分化傾向が同じであるかどうか、また異なる場合それを平準化する方法があるかはわかっていない。iPS細胞を効率的かつ安定に分化させる技術の開発はiPS細胞の医療応用において重要な課題である。今年度、我々は、3つの異なるマウスiPS細胞株の心血管分化効率の解析を行った。 iPS細胞を平面培養下で自発的に分化させ、タイムコースを追って心筋特異的遺伝子の発現を定量化し、心筋分化の指標とした。コントロールとして、マウスES細胞株を用いた。結果、ある1つのiPS細胞株において、心筋特異的遺伝子であるNkx2.5,ANF,α-MHCの発現量が、ES細胞を含む他の細胞株に比べて著明に低下していることが明らかになった。このiPS細胞株では、心筋細胞の拍動を示すコロニー数、免疫染色におけるa-MHC陽性細胞数も有意に低下しており、他の細胞株に比べ心筋分化効率が低いことが示された。 一方、中胚葉マーカーであるGATA4,VEGF,Flk-1の発現は各細胞株間で有意な差が見られず、中胚葉から心筋への分化において、何らかの差がiPS細胞株ごとに存在するのではないかと考えられた。 以前に我々は、トリコスタチンA(TSA)の投与によってES細胞の心筋分化が促進されることを報告した。今回、iPS細胞にTSAを投与したところ、ES細胞同様の心筋分化促進作用が観察された。特筆すべきは、自発的な心筋分化効率が低いiPS細胞においても、TSAによる心筋分化の亢進が見られ、遺伝子によっては、他の細胞株と同程度にまで発現量が上昇することが認められた。
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